ISBN-10 : 4488010512
ISBN-13 : 978-4488010515
電灯・・・当時、愚かな連中は未来がすぐそこにあるように感じていた。エジプトで地中海と紅海を結ぶ運河が開通して、アジアに行くのにアフリカを迂回する必要がなくなった(迂回航路が不要になって、多くの正直な海運会社が被害を受けることになる)。万国博覧会が開催された。その建築物を見ると、オスマンによるパリの解体工事はまだ序の口だったと思われた。アメリカでは東から西まで大陸を横断する鉄道の敷設が完成しようとしていた。ちょうど黒人奴隷が解放されたところで、この下等民族が国全体を侵略して、ユダヤ人よりひどい性悪の混血の溜まり場に変えてしまうに違いない。アメリカの南北戦争で潜水艦が登場し、水兵は溺死ではなく窒息死するようになった。両親の世代が吸っていた立派な葉巻は貧弱な紙巻煙草に変わり、一分で燃えつきて喫煙者の愉しみは消え失せた。しばらく前からフランス兵士は金属の箱に保存されて傷んだ肉を食べていた。アメリカでは、水圧ジャッキで建物の高層階に人を運ぶ密閉された小部屋が発明されたという噂だった。-土曜日の夜にジャッキが故障してその小部屋に人が二晩閉じ込められ、水と食料どころか空気がなくなって死んでいるのが月曜日に発見されたというニュースさえすでに届いていた。
生活はますます便利になり、誰もが喜んでいた。離れた場所にいながら会話できる機械や、ペンを使わずに書く機会の研究が進んでいた。偽造すべき原本というようなものがこの先も存在するのだろうか。
人々は香水店のショーウィンドゥに見とれていた。ワイルドレタスの樹液には肌を若がえらせる効果があるとされ、キナの増毛効果が称賛された。バナナのポンパドゥール・クリーム、カカオ脂の乳液、パルマ・スミレの白粉、これらはいずれも色っぽい女性をさらに魅力的にするために発明されたものだが、今ではお針子娘も使っていた。多くの仕立て屋で彼女たちに代わって縫い仕事をする機械が導入されはじめたので、お針子娘は愛人になる用意ができていたのだ。
新時代の唯一の興味深い発明は、座って用を足せる陶製の便器だった。
しかしこの私にしても、こうした目に見える人々の熱狂ぶりが帝国の終焉を示していたことに気づいていなかった。万国博覧会でアルフレート・クルップは見たこともない巨大な大砲を展示した、50トンの重量があり100ポンドの砲弾が発射可能だった。皇帝はとても気に入ってクルップにレジオン・ドヌール勲章を授与したほどであったが、ヨーロッパ各国に売りつけようとしていたクルップから武器の価格表が送られてくると、なじみの兵器会社を持っていたフランス軍上層部から注文を取りやめるよう説き伏せられた。一方、プロイセン国王がこれを購入していたことは言うまでもない。
ナポレオン三世はかつての判断力を失っていた。腎臓結石のせいで、乗馬どころか食事も睡眠も取れず、保守派と妻の言いなりだった。彼らは今でもフランス軍が世界一だと信じていたが、実際は40万人のプロイセン軍に対してせいぜい10万人の兵士がいただけだ(あとになってわかったことだが)。すでにシュティーバーはシャスポー銃に関する報告書をベルリンに送っていた。フランスではシャスポー銃が最新鋭の小銃だと考えられていたが、実際はすでに博物館行きになりつつある代物だった。しかも、フランスにはプロイセンのような情報組織ができていないというのがシュティーバーの自慢だった。
ISBN-13 : 978-4488010515
電灯・・・当時、愚かな連中は未来がすぐそこにあるように感じていた。エジプトで地中海と紅海を結ぶ運河が開通して、アジアに行くのにアフリカを迂回する必要がなくなった(迂回航路が不要になって、多くの正直な海運会社が被害を受けることになる)。万国博覧会が開催された。その建築物を見ると、オスマンによるパリの解体工事はまだ序の口だったと思われた。アメリカでは東から西まで大陸を横断する鉄道の敷設が完成しようとしていた。ちょうど黒人奴隷が解放されたところで、この下等民族が国全体を侵略して、ユダヤ人よりひどい性悪の混血の溜まり場に変えてしまうに違いない。アメリカの南北戦争で潜水艦が登場し、水兵は溺死ではなく窒息死するようになった。両親の世代が吸っていた立派な葉巻は貧弱な紙巻煙草に変わり、一分で燃えつきて喫煙者の愉しみは消え失せた。しばらく前からフランス兵士は金属の箱に保存されて傷んだ肉を食べていた。アメリカでは、水圧ジャッキで建物の高層階に人を運ぶ密閉された小部屋が発明されたという噂だった。-土曜日の夜にジャッキが故障してその小部屋に人が二晩閉じ込められ、水と食料どころか空気がなくなって死んでいるのが月曜日に発見されたというニュースさえすでに届いていた。
生活はますます便利になり、誰もが喜んでいた。離れた場所にいながら会話できる機械や、ペンを使わずに書く機会の研究が進んでいた。偽造すべき原本というようなものがこの先も存在するのだろうか。
人々は香水店のショーウィンドゥに見とれていた。ワイルドレタスの樹液には肌を若がえらせる効果があるとされ、キナの増毛効果が称賛された。バナナのポンパドゥール・クリーム、カカオ脂の乳液、パルマ・スミレの白粉、これらはいずれも色っぽい女性をさらに魅力的にするために発明されたものだが、今ではお針子娘も使っていた。多くの仕立て屋で彼女たちに代わって縫い仕事をする機械が導入されはじめたので、お針子娘は愛人になる用意ができていたのだ。
新時代の唯一の興味深い発明は、座って用を足せる陶製の便器だった。
しかしこの私にしても、こうした目に見える人々の熱狂ぶりが帝国の終焉を示していたことに気づいていなかった。万国博覧会でアルフレート・クルップは見たこともない巨大な大砲を展示した、50トンの重量があり100ポンドの砲弾が発射可能だった。皇帝はとても気に入ってクルップにレジオン・ドヌール勲章を授与したほどであったが、ヨーロッパ各国に売りつけようとしていたクルップから武器の価格表が送られてくると、なじみの兵器会社を持っていたフランス軍上層部から注文を取りやめるよう説き伏せられた。一方、プロイセン国王がこれを購入していたことは言うまでもない。
ナポレオン三世はかつての判断力を失っていた。腎臓結石のせいで、乗馬どころか食事も睡眠も取れず、保守派と妻の言いなりだった。彼らは今でもフランス軍が世界一だと信じていたが、実際は40万人のプロイセン軍に対してせいぜい10万人の兵士がいただけだ(あとになってわかったことだが)。すでにシュティーバーはシャスポー銃に関する報告書をベルリンに送っていた。フランスではシャスポー銃が最新鋭の小銃だと考えられていたが、実際はすでに博物館行きになりつつある代物だった。しかも、フランスにはプロイセンのような情報組織ができていないというのがシュティーバーの自慢だった。
0 件のコメント:
コメントを投稿