停めた車の周囲は、手入れされた痕跡がない、まさに自然といった趣があり、その中に獣道とは云えないものの、他方で整備された道とは云えない道(のようなもの)がさらに上まで続いていた。兄は、その道を歩き出し、私もそれを追って横に並んだ。
地面が多少湿っており、また、道の傾斜も相俟ってか、何度か滑りそうになったが、木の根や石が表面に突き出ていたことから、それらに助けられつつ、さらに歩を進め登っていった。兄の方も、私同様、あまり慣れない感じで登っていたが、こうした状況にて兄が履いているビーンブーツのグリップ力はどうであったのだろうか・・。
そうこうするうちに、二人は半島頂上の平原に辿りついた。そこからの眺めは良く、遥かに水平線が広がり、また内陸に見える山々の稜線と海岸線と海によって構成される景色には自然な奥行きがあり、また、各所の色合いが微妙に変化しているところにも深みがあり、そこには、束の間、都市部から来た人間に我を忘れさせるような効果があったと云える。
そして、そうした景色を眺め、さらに平原上部に行ってみると、そこには昨日見た古墳と、同じ造営様式(横穴式石室)の古墳が口を広げていた。この古墳はあまり大きくはないものの、こうした人跡稀な場所に今なお立地していることに、何やら、さきの景色から感じた絵画的な深みと種類の異なる深みを感じた。
兄は「ここはね、Kミ山古墳といって、おそらく6世紀代に造営された古墳だと云われているけれども、特筆すべきであると思うことは「こうした周囲の海を広く見渡せる半島の頂上に墳墓を築こうと考えたのは、一体、どういった背景の人だったのだろうか。」ということでね、この場所は、古くから集落から遠い場所であったから、ここに墓を築くということは、当時としては、なかなか大変な作業であったに違いないけれども、それでも造営した当時のこの地に住む人々は、一体どんな思いで造ったのだろうかね・・。まあ、それがさっきの埋葬者の背景にも結節するところなんだけれども、そうしたことに思いが至ると、結構考えさせられるよ、こうした古代の造営物も・・。」とのことであった。そうしたハナシをしている間にも、我々はさらに古墳に近づき、あまり残存していない羨道を抜け玄室に入っていた。
さて、この玄室もまた、大分類では昨日多く見た古墳玄室と同じ横穴式石室であったが、この目の前の古墳の造営様式は明らかに昨日見た、ある程度の均一性が保持された群集墳とは異なり、使用している石材が粗削りのものが多く、それにより、玄室全体から受ける印象も、同様であったが、おそらく、これも一種の地域性と云えるのだろう・・。
また、ここでは玄室内の天井、壁面には、赤色に塗られていた痕跡が所々残り、さらに面白いと思われた点は、玄室内の遺体埋葬場所と思しき部位に板石を立てた区切り、石製のパテーション(石障)が築かれていたことであった。こうした玄室内での造営様式は、昨日見たいくつかの古墳では見受けられず、そこからも、古代の、ここW地域内においても、独自の地域性のようなものがあったことが理解出来、また、おそらくそれが、当時の列島では自然な姿であったのだろう・・。
さらに、兄によると「元々、この古墳は墳丘直径が40メートルほどあり、この他にも幾つかの横穴式石室を主体とする埋葬施設が同じ墳丘に造営されていたが、時間による浸食や工事によって、このような姿になっている。そして、一見しては分からないことであるが、この古墳の造営様式は、遠く九州の肥後、だから熊本あたりのそれに近いということであり、それぞれの造営様式の類似性・関連性は指摘出来ても、その具体的な内容については、分からないままなんだよ・・。」とのことであった。
私としては、多少地域スケールが大きいが、それは古代エジプト、メソポタミア、ギリシャで共通した神獣スフィンクスのようなものが思い浮かんだが、我が国のそれら古墳の場合、それぞれを結節する物語としての歴史が不在であるため、ただ現実の造営様式の類似性のみが我々に提示されるのであろう・・。
ともあれ、我々は古墳をしばらく見学し、外に出て、平原をしばらく歩き、周囲の景色を眺めてから車に戻った。時刻は午後3時を少し回った頃であり、兄はまた、言葉が少なくなっており、そこからしばらくの間、自分からしゃべることはなく、次に兄が話しかけてきたのは、さきほど通った海沿いの道をしばらく走っていた時であった。
*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!
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ISBN978-4-263-46420-5
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