2026年2月12日木曜日

20260211 中央公論新社刊 「自由の限界」世界の知性21人が問う国家と民主主義 中公新書ラクレ pp.39-42より抜粋

中央公論新社刊 「自由の限界」世界の知性21人が問う国家と民主主義 中公新書ラクレ
pp.39-42より抜粋
ISBN-10 ‏ : ‎ 4121507150
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4121507150

日本が人口減少に転じてほぼ10年になる。出生率は20年間にわたって非常に低い。国民の年齢中央値は約46.9歳に至り、世界で最も老いた国民と言える。日本は人類にとって未知の領域を進んでいる。
 人口が減っても問題はないと主張する人々がいる。「ひとり当たりの生産性が向上するから」「世界一の日本のロボットが生産を担うから」というような理由を耳にする。ロボット待望論は日本人の秘めた夢ではなかろうか。人口減少で労働力不足が甚だしくなり、移民受け入れが不可避となる前に、完璧なロボットが登場するという夢だ。確かに日本のロボット技術は素晴らしい。加えて、日本の高齢者は定年後も働き続ける意欲を持つ。
 しかし、日本の課題はモノの生産ではない。日本は経済的豊かさを既に手にしている。真の課題は人口の再生産にある。国が繁栄し、居心地も良く、創造的であるためには、十分に若い人口を持つ必要がある。高齢者は既知の技術・知識を使う仕事はできるが、創造し、刷新する仕事は難しい。ロボットは人口を再生産できない。高齢者とロボットの働く社会はうまく機能した場合でも、停滞は免れまい。知的な刷新を可能にするには、人口構造が十分に若くなくてはならない。
 解決策は二つ。一つは子供を作ること、もう一つは移民を受け入れること。前者の方がより大事だが、二つを組み合わせて実施することが効果的だ。だが、日本に出生率回復の決め手はなく、移民受け入れは文化的に容易でない。人口問題は人々がその深刻さを理解する頃には、危機の度合いは加速度的に進んでいるものだ。私の見るところ、日本は決定的に重大な瞬間に近づいている。
 
「同質」の起源
 日本は今、なすべきことは人口問題の大議論だ。同様に重要なことは、明治維新からの近代化の歩みを再検討することだ。
 私見では、日本が人口減少に至ったのは、この150年の近代化のあり方に原因がある。日本は申し分のない社会を築いたと大帝の日本人は感じているため、新たに子供を加えること、移民を受け入れることは申し分のない社会に余分な混乱を与える、と案じているのではなかろうか。
「日本人は同質・均質で、調和を重んじる」という日本の自己イメージは、近代化を通じて作られた。
「家督を相続するのは長男ひとり」という「直系家族」は明治時代に天皇家を対象に法制化され、その後に制定された民法によって社会全体の規範になる。
 明治日本は科学技術・経済・憲法で大いなる近代化を遂げた。直系家族は上下関係に価値を置き、上意下達の社会をうむ。伝達は極めて効率的で、科学技術と経済の発展に寄与した。これは欧州の後発国ドイツにも当てはまる。日独ともに西洋の列強に追いつく。
 しかし、上下関係に基づく秩序は次第に絶対視されるようになり、父権が強化され、社会の制約が増して、社会が硬直化していく。
 今日の日本で直系家族は消滅し、女性の半数近くは大学に進んでいる。にもかかわらず、上下関係重視や女性差別は解消されていない。価値観が硬直しているように見える。
 江戸時代は、秩序は行き渡らず、雑然としていて、柔軟で奔放な側面もあった。庶民の過酷な貧困について承知しているが、女性は今日よりも社会的に自由だったのではなかろうか。こうしたことを速水融先生とその門下の研究から読み取った。
 西洋の意識に日本が立ち現れるのは、明治時代の1905年、ロシアに勝利した時だ。西洋は驚愕したが、日本は西洋の国際政治の独占を破ったことで歴史に貢献したと私は考える。日本はその後、植民地主義を採るが、私の解釈では、西洋列強の模倣に努めた結果だ。列強が植民地を強奪するのなら、日本も持つべきだ、と。
 日本の歴史を大局的に見れば、日本は拡張主義に走る懸念の少ない、平和国家だ。江戸時代は鎖国しながらも、知的・科学技術的情報は国外から取り入れ、国内商業を発達させて、長期の安定を築いた。ほとんど独りでも発展が可能なことを日本は世界に示した。
 日本に今、必要なことは江戸時代の精神を見いだし、江戸時代の柔軟さや奔放さや奔放さを少しは取り戻すことではなかろうか。

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