pp.95-99より抜粋
ISBN-10 : 4087607380
ISBN-13 : 978-4087607383
中国が21世紀まで経済の高度成長を持続でき、鄧小平の時代まで団結を保ち、主導権争いで混乱しなければ、覇権を目指すことになるだろう。それが成功するか否かは、東アジアの武力外交ゲームの他の当事者の反応にかかっている。
中国は、歴史、文化、伝統、その領土の大きさ、経済的な活力、自己のイメージなどのすべてから見て、東アジアでの覇権を求めようとするだろう。この目標は、その急激な経済発展から見ても自然なものだ。他のすべての強国、イギリスとフランス、ドイツと日本、アメリカとソ連は、自分たちが急激な工業化と経済成長をはたすと同時に、またはその直後の時期に、領土拡大や強い自己主張、そして帝国主義に走った。経済的、軍事的な力をたくわえたあとで、中国が同じようなことをしないと考える理由はまったくない。2000年にわたって中国は東アジアで抜きん出た強国だった。その歴史的な役割を回復しようとする意思を、中国はますます強く示しはじめている。1842年に、南京条約をイギリスに押しつけられたときからはじまって100年以上にわたった西欧と日本にたいする長い屈辱的な従属の時代に終止符を打ちたいと思っているのだ。
1980年代の末に、中国はその拡大する経済的な資源を、軍事力や政治的影響力に変えようとする力は、成長する経済の大きな部分を占めるだろう。公表された数字では、1980年代の大半を通じて、中国の軍事支出は減少してきた。しかし1988年から1993年のあいだに、中国の軍事支出は、現在の貨幣価値に換算して倍増し、実額で50%増えている。1995年の計画では、前年度よりも21%の増加を見込んでいる。1993年の中国の軍事支出は、公式の外貨換算率でおよそ220億ドルから370億ドルのあいだ、実際の購買力平価では900億ドルと予測されている。1980年代末に、中国はその軍事戦略を書きかえ、ソ連との本格的な戦争にともなう侵略への防衛から、地域内で突出した軍備拡張を中心にした戦略に変換した。この転換にともない、海軍力の拡張にのりだし、近代的な長距離戦闘機を手に入れ、空中給油能力の開発を行い、空母の購入を決定した。中国はまた、ロシアとのあいだで、両者に有益な兵器購入について合意した。
中国は東アジアで支配的な勢力になりつつある。東アジアの経済発展も、ますます中国志向を強めつつある。大陸中国と他の三つの中国の急成長。それに加えてタイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンの経済成長に中国系の人びとが中心的な役割をはたしていることなどで、この傾向がさらに強まっている。中国では、南シナ海における主権を主張する声がますます高まっている。西沙諸島に基地を設け、1988年にはいくつかの島々の領有権をめぐってヴェトナムと交戦し、フィリピン沿岸のミスチーフ岩礁に軍を駐留させ、インドネシアのナトゥナ諸島に接する天然ガス産地の所有権を主張している。東アジアにアメリカ軍が引きつづき駐留することにたいしては、控え目な支持を打ち切り、強く反対しはじめた。冷戦時代には、ひそかに日本に軍事力拡張をうながしてきたが、冷戦が終結すると同じように、日本の軍事力拡大にたいする懸念をしだいに強く表明するようになった。地域での覇権国の通例にしたがい、中国は地域における軍事的優越性を確保するための障害を最低限にしようとしている。
南シナ海などのわずかな可能性をのぞいて、東アジアにおける中国の覇権には、直接的な武力の行使による領土の拡大は必要がないと思われる。しかし、中国は他の東アジア諸国に、程度こそちがえ左記のいくつか、あるいはすべてを期待するだろう。
●中国の領土保全、チベットと新疆ウイグル自治区に対する中国の主権、香港と台湾の中国への併合。
●南シナ海と、場合によってはモンゴルにたいする中国の主権を黙認すること。
●経済、人権、兵器拡散、その他の問題をめぐる西欧との紛争で中国を支持すること。
●この地域で、中国が圧倒的な軍事力をもつことを容認し、その優位に対抗できるような核兵器、通常兵器をもたないこと。
●地域的な問題に対処するのに、中国の指導力を尊重すること。
●一般的に中国からの移民を受け入れること。
●自分たちの社会で、反中国人運動を禁止するか抑止すること。
●それぞれの社会に居住する中国人の権利を尊重すること。彼らが中国国内の親戚や、出身地域と緊密な関係を保つ権利を尊重すること。
●他の勢力と、軍事同盟や反中国的な提携関係を結ばないこと。
●東アジアの公用語として、まずマンダリンに英語を補完させ、最終的にはそれを公用語にするようにすること。
専門家によれば、中国お急激な興隆は、19世紀末期のヨーロッパで、ウィルヘルム時代のドイツが支配的勢力として勃興したのに似ているという。新しく強大な勢力が出現すると、かならず大きな混乱がともなう。実際に中国が主要勢力となったら、過去500年に起こった似たような現象も、すこぶる矮小なものに見えるだろう。「世界に占める中国の領土は巨大なもので」と、1994年にリー・クワンユーが述べている。「30年から40年ののちには、新しい力のバランスを見出さなければならない。それは単に新しい巨大な勢力というだけにとどまらない。人類史上、最大の勢力だ」。中国の経済発展が、あと10年つづいたら(可能に思える)、そして後継者選びのときにもその団結を維持できれば(できそうに思える)、東アジア諸国はもちろん世界中が、人類の歴史で最大の勢力がますます独断的な役割を演じるのを受け入れざるをえないだろう。
ISBN-10 : 4087607380
ISBN-13 : 978-4087607383
中国が21世紀まで経済の高度成長を持続でき、鄧小平の時代まで団結を保ち、主導権争いで混乱しなければ、覇権を目指すことになるだろう。それが成功するか否かは、東アジアの武力外交ゲームの他の当事者の反応にかかっている。
中国は、歴史、文化、伝統、その領土の大きさ、経済的な活力、自己のイメージなどのすべてから見て、東アジアでの覇権を求めようとするだろう。この目標は、その急激な経済発展から見ても自然なものだ。他のすべての強国、イギリスとフランス、ドイツと日本、アメリカとソ連は、自分たちが急激な工業化と経済成長をはたすと同時に、またはその直後の時期に、領土拡大や強い自己主張、そして帝国主義に走った。経済的、軍事的な力をたくわえたあとで、中国が同じようなことをしないと考える理由はまったくない。2000年にわたって中国は東アジアで抜きん出た強国だった。その歴史的な役割を回復しようとする意思を、中国はますます強く示しはじめている。1842年に、南京条約をイギリスに押しつけられたときからはじまって100年以上にわたった西欧と日本にたいする長い屈辱的な従属の時代に終止符を打ちたいと思っているのだ。
1980年代の末に、中国はその拡大する経済的な資源を、軍事力や政治的影響力に変えようとする力は、成長する経済の大きな部分を占めるだろう。公表された数字では、1980年代の大半を通じて、中国の軍事支出は減少してきた。しかし1988年から1993年のあいだに、中国の軍事支出は、現在の貨幣価値に換算して倍増し、実額で50%増えている。1995年の計画では、前年度よりも21%の増加を見込んでいる。1993年の中国の軍事支出は、公式の外貨換算率でおよそ220億ドルから370億ドルのあいだ、実際の購買力平価では900億ドルと予測されている。1980年代末に、中国はその軍事戦略を書きかえ、ソ連との本格的な戦争にともなう侵略への防衛から、地域内で突出した軍備拡張を中心にした戦略に変換した。この転換にともない、海軍力の拡張にのりだし、近代的な長距離戦闘機を手に入れ、空中給油能力の開発を行い、空母の購入を決定した。中国はまた、ロシアとのあいだで、両者に有益な兵器購入について合意した。
中国は東アジアで支配的な勢力になりつつある。東アジアの経済発展も、ますます中国志向を強めつつある。大陸中国と他の三つの中国の急成長。それに加えてタイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンの経済成長に中国系の人びとが中心的な役割をはたしていることなどで、この傾向がさらに強まっている。中国では、南シナ海における主権を主張する声がますます高まっている。西沙諸島に基地を設け、1988年にはいくつかの島々の領有権をめぐってヴェトナムと交戦し、フィリピン沿岸のミスチーフ岩礁に軍を駐留させ、インドネシアのナトゥナ諸島に接する天然ガス産地の所有権を主張している。東アジアにアメリカ軍が引きつづき駐留することにたいしては、控え目な支持を打ち切り、強く反対しはじめた。冷戦時代には、ひそかに日本に軍事力拡張をうながしてきたが、冷戦が終結すると同じように、日本の軍事力拡大にたいする懸念をしだいに強く表明するようになった。地域での覇権国の通例にしたがい、中国は地域における軍事的優越性を確保するための障害を最低限にしようとしている。
南シナ海などのわずかな可能性をのぞいて、東アジアにおける中国の覇権には、直接的な武力の行使による領土の拡大は必要がないと思われる。しかし、中国は他の東アジア諸国に、程度こそちがえ左記のいくつか、あるいはすべてを期待するだろう。
●中国の領土保全、チベットと新疆ウイグル自治区に対する中国の主権、香港と台湾の中国への併合。
●南シナ海と、場合によってはモンゴルにたいする中国の主権を黙認すること。
●経済、人権、兵器拡散、その他の問題をめぐる西欧との紛争で中国を支持すること。
●この地域で、中国が圧倒的な軍事力をもつことを容認し、その優位に対抗できるような核兵器、通常兵器をもたないこと。
●地域的な問題に対処するのに、中国の指導力を尊重すること。
●一般的に中国からの移民を受け入れること。
●自分たちの社会で、反中国人運動を禁止するか抑止すること。
●それぞれの社会に居住する中国人の権利を尊重すること。彼らが中国国内の親戚や、出身地域と緊密な関係を保つ権利を尊重すること。
●他の勢力と、軍事同盟や反中国的な提携関係を結ばないこと。
●東アジアの公用語として、まずマンダリンに英語を補完させ、最終的にはそれを公用語にするようにすること。
専門家によれば、中国お急激な興隆は、19世紀末期のヨーロッパで、ウィルヘルム時代のドイツが支配的勢力として勃興したのに似ているという。新しく強大な勢力が出現すると、かならず大きな混乱がともなう。実際に中国が主要勢力となったら、過去500年に起こった似たような現象も、すこぶる矮小なものに見えるだろう。「世界に占める中国の領土は巨大なもので」と、1994年にリー・クワンユーが述べている。「30年から40年ののちには、新しい力のバランスを見出さなければならない。それは単に新しい巨大な勢力というだけにとどまらない。人類史上、最大の勢力だ」。中国の経済発展が、あと10年つづいたら(可能に思える)、そして後継者選びのときにもその団結を維持できれば(できそうに思える)、東アジア諸国はもちろん世界中が、人類の歴史で最大の勢力がますます独断的な役割を演じるのを受け入れざるをえないだろう。
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