2025年8月29日金曜日

20250828 河出書房新社刊 ユヴァル・ノア・ハラリ:著 柴田 裕之:訳「NEXUS 情報の人類史 : 下 AI革命」 pp.130-132より抜粋 

河出書房新社刊 ユヴァル・ノア・ハラリ:著 柴田 裕之:訳「NEXUS 情報の人類史 : 下 AI革命」
pp.130-132より抜粋 
ISBN-10 ‏ : ‎ 4309229441
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4309229447

 お金や神のような共同主観的現実が、人々の頭の外の物理的な現実に影響を与えることができるのとちょうど同じで、コンピューター間現実もコンピューターの外の現実に影響を与えることができる。2016年には「ポケモンGO」というゲームが世界中で大人気になり、年末までに何億回もダウンロードされた。「ポケモンGO」は拡張現実のモバイルゲームだ。プレイヤーは自分のスマートフォンを使って、「ポケモン」と呼ばれるバーチャルな生き物を見つけたり、それと戦ったり、それを捕まえたりすることができる。ポケモンは、物理的な世界の中に存在しているように見える。私は一度、甥のマタンとポケモンハントに出掛けたことがある。彼の家の近所を歩いていても、私には家や木、岩、自動車、人、ネコ、イヌ、ハトなどしか見えなかった。ポケモンは目に入らなかった。スマートフォンを持っていなかったからだ。だが、自分のスマートフォンのレンズを通してあたりを見回しているマタンには、岩の上に立っているポケモンや木の陰に隠れているポケモンが「見えた」。

 私にはそれらのポケモンは見えなかったが、彼らはマタンのスマートフォンの中に閉じ込められているわけではないことは明らかだった。他の人々にも、それらのポケモンが「見えた」からだ。たとえば、同じポケモンを捕まえようとしている他の子供にも二人出会った。もしマタンがポケモンをうまく捕まえれば、他の子供たちもたちまち何が起こったかを目にすることができた。ポケモンは、コンピューター間現実の存在だったのだ。それらは、物理的な世界に原子として存在するのではなく、コンピューターネットワークの中にビットとして存在していたが、それでも言ってみれば、さまざまな形で物理的な世界とかかわり合い、その世界に影響を与えることができた。

 さて、今度はコンピューター間現実のもっと重大な例を考察しよう。グーグル検索でウェブサイトが与えられる順位について考えてほしい。グーグルでニュースや飛行機のチケット、お薦めのレストランなどを検索すると、あるウェブサイトがグーグルの最初のページのいちばん上に登場する一方、50ページ目の中ほどに追いやられているウェブサイトもある。このグーグルの順位とはいったい何なのか?そして、どうやって決まるのか?グーグルのアルゴリズムは、そのウェブサイトをどれだけの人が訪れるかや、どうやって決まるのか?グーグルのアルゴリズムは、そのウェブサイトをどれだけの人が訪れるかや、他のウェブサイトがどれだけ多くそのサイトにリンクしているかといった、多種多様な要因にポイントを割り振って順位を決める。順位そのものはコンピューター間現実であり、何十億台ものコンピューターをつないでいるネットワーク、すなわちインターネットの中に存在する。ポケモンと同じで、このコンピューター間現実も物理的な世界へとあふれ出てくる。報道機関や旅行代理店やレストランにとって、自分のウェブサイトがグーグルの最初のページのいちばん上に表示されるか、それとも50ページ目の中ほどに表示されるかは死活問題だ。

 グーグルの順位はじつに重要なので、人々はあの手この手を使ってグーグルのアルゴリズムを操作し、自分のウェブサイトの順位を上げようとする。たとえば、ボットを使ってウェブサイトへのトラフィックを増やすかもしれない。これはソーシャルメディアでもありふれた現象であり、調整されたボットの大軍団がユーチューブやフェイスブックやX(旧ツイッター)のアルゴリズムを絶えず操作している。もしもある投稿記事が爆発的に拡散したら、それは人間が本当に興味を持ったからなのか、それとも、何千ものボットがXのアルゴリズムをまんまと騙したからなのか?

 ポケモンやグーグルの順位のようなコンピューター間現実は、人間が神殿や都市に持たせる神聖さのような共同主観的現実と似ている。

0 件のコメント:

コメントを投稿