pp.9-10より抜粋
ISBN-10 : 4122016916
ISBN-13 : 978-4122016910
凡そ人類は生まれながらにして、平和を好愛する共通の美質を有す。けれども世間往々ことを好み乱を欲するの士なきに非ず。このほとんど対立両存なすべからざる二大傾向の同一個人を支配するは、矛盾するが如しと雖も、それこれあるがために個人はますます自我を拡大し、社会は愈々発展するを得べし、そもそも建設と破壊とは、相俟って社会万般の事象を更新し、展開せしむる二大勢力にして、破壊なきところに建設なし。ここに於いて、吾人は天地に磅礴せる自然の好機を悟了すべきなり。
しかれども、破壊には必ずその基底たり得べき確乎たる理由存在せざるべからず、したがって漫然たる破壊は、継起し来るところの建設になんら益なきのみならず、かえってその障碍となることすくなからず。所謂徒に乱を好む者の所為の如き即ちこれなり。
岡本柳之助君の一生は、恐らく破壊を以て終始せるものと謂うも、必ずしも不可なきに似たり。しかしその基くところは、衷心渝ることなき憂国の至誠にして、更に一点利己の観念を交えず。これ君の破壊がしばしば策せられて、成否相半するに係らず、国士としての面目依然として存する所以たらずんばあらず。
君は故陸奥宗光伯とその郷関を同じうす。福堂は身元老院議官たりしに係らず、当時遥かに大西郷と通じ、東西呼応してことを挙げんと策せるほどに謀反好きなりき、予は茲に郷党の気風を云為して、二人者の性格に論及するものに非ず。けれども社会が久しく同一状態を維持して、進転の跡を示さず、永く沈滞停止の状に在るに於いては、自然の要求は必ずや破壊思想の勃興を促進し、以て新たなる建設を誘致するの理を断言せんと欲す。我邦の現状果して破壊すべきか、我これを知らず焉。
ただ破壊の士健闘の士たる岡本柳之助君が、近く隣邦の客舎に長逝せるを聞き、感慨禁ぜず、茲に破壊必ずしも単に破壊に終らざる所以を述べて、聊か世の惑を解かんと欲するのみ。
伯爵 大隈重信
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