とはいえ、この著作をも含め加藤周一の著作を読み始めますと、その独特とも云える硬質な文体にいつの間にか取り込まれてしまうのです・・(苦笑)。三島由紀夫もどこかで述べていましたが、文体の持つ作用・効果とは、そのようなものであると思われます。
また、感覚的ではありますが、この文体と近似しているのは『神聖喜劇』の著者大西巨人による文章ではないかと思われます。特に若い方々の中で『何か骨のある大著に挑んでみたい!』と考えている方々がいらっしゃいましたら、以前にも述べたトーマス・マン『魔の山』も良いかもしれませんが、この『魔の山』は西欧社会を描いたものであることから、比較的容易に著作内容を対象として眺めることが可能であると云えるのですが、他方この『神聖喜劇』は我が国の古くからの因習などをも当然のように含む日常・土俗的世界をこれまた一種独特なストイックとも云える硬質な文体にて描き、さらに作中内に想起あるいは古典・洋書(英語・ドイツ語)などからの引用などが頻繁にあるため、その記述内容を完全に理解しながら読み進めるのは、学術書を読むのと同程度(あるいはそれ以上)に骨が折れると云えるかもしれません・・(苦笑)。
そこから、この作品を読んでいて否応なく認識させられることは戦前高等教育(特に教養教育)のレベルの高さと、戦前および戦中の我が国社会そして軍隊(陸軍)内部の実相あるいは生の様相です。また、この作品に関しては『所詮小説であるから徹頭徹尾フィクションであろう。』といった意見を聞くことはありませんし、あるいは、そうした意見を持たれる方々は、実際にこの著作を手に取り読むことは少ないと思われます・・。くわえて、以前にも当ブログにても述べましたが、今後、こうした小説が我が国にて著される可能性はかなり低いのではないかと思われます・・。しかしまた他方で、もしもこの作品が完全に英訳化されましたらローレンス・ヴァン・デル・ポスト著の『The Seed and the Sower』以上に我が国の好ましくない(あまり知られたくない)側面を抉りに抉った内容ともなることから、何かしらの問題が生じるのではないかとも思われます・・。とはいえ、こうした問題は、おそらくある程度の期間を通じ言論・文学などが活字文化が自由であった国々の中においては均しく存在するとも思われますので、その意味において我が国は、そこまでヒドい国でもないのかもしれません・・。
ともあれ、もしも興味を持たれましたら、この『神聖喜劇』全五巻を小説にて是非、読んでみてください。おそらく、この作品はかなり濃厚な『読書』という経験をさせてくれるのではないかと思われます・・。
今回もここまで読んで頂き、どうもありがとうございます。
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今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
数年前から昨日の大阪府北部にて発生した地震に至るまでの列島各地の大規模自然災害によって被害を被った地域における諸インフラの回復および、その後の速やかな復興を祈念しています。
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