2024年6月9日日曜日

20240609 和歌山県での銅鐸出土傾向からの仮説

銅鐸は中国大陸、朝鮮半島での鐘(鐸)や鈴、あるいはそれらの系譜を引く、我が国の弥生時代中期から末期(紀元前5世紀頃~紀元2世紀末)まで主に西日本で用いられた青銅製の祭器である。

これまでに銅鐸は我が国全土で500点(口)ほど出土しており、それらの出土地域や状況などから、銅鐸は主として農耕に関連する祭祀に用いられていたと考えられており、出土状況の傾向としては、集落に近い里山の山頂近くの比較的平坦な斜面での出土例が相対的に多いと云える。

銅鐸は鐘身を吊り下げるための通し穴がある部位の「紐」、そして鐘本体である「身」、そして鐘身に装飾として洗練された鋳バリとも云える「鰭」により構成される。また、前述「紐」部位の矢状断での形状によって様式分類がされることもあり、様式の古い順から述べると、断面の形状が菱形に近い「菱環紐式」、その次に、この「菱環紐式」の外縁が平坦に延長された紐断面の「外縁紐式」、次いで、通し穴を用いて吊るし、鳴らす用途が乏しくなったためであるのか、「紐」部の強度を考慮せずに「紐」が大型化して、その断面が平坦になった「扁平紐式」、そして次に大型化した「紐」や「鰭」部に、立体の区分け線がある「突線紐式」へ、といった様式の変化が看取される。

また「紐」部でなく「身」についても時代毎での様式の変化があり、ごく当初は、装飾が乏しく祖型である大陸や半島での鐘や鈴に近いものであったのが、経時的に大型化して、そして鐸身面積も広くなり、そこに縄文時代以来の流水文や蕨手文などの装飾が施され、さらに鐸身全体には縦横の線が走り、それにより区分けされた区画に、人や動物などを題材とした装飾も描かることもあり、概して銅鐸は、その祖型から時代を経る毎に、大型化、高装飾化していったと云える。ともあれ、こうした装飾や線による文様の様式からも、さきの「紐」同様に様式分類される。さらに、そうした分類から、銅鐸祭祀集団や、それら銅鐸の作製集団の時代毎での変化の様相なども看取され得る。

さて、上記のような銅鐸の様式分類を視座として和歌山県での出土銅鐸の様相を検討すると、先ず第一に和歌山県は全国的に銅鐸の出土数が多く、前述の全国で500点のうち、伝聞を含めると40点以上が和歌山県での出土である。そして県内での銅鐸出土の様相は、県北部には最古段階ではないものの、比較的簡素で、大型とは云えない「外縁紐式」や「扁平紐式」の様式を持つ銅鐸の出土が相対的に多く、対して県南部では、そこから時代が下り大型化・高装飾化した「突線紐式」銅鐸の出土が相対的に多いと云える。こうした県内での銅鐸出土状況から、県南部では、新式とも云える「突線紐式」銅鐸が作製される時代になってから銅鐸祭祀が受容されたと考えられているが、そのほかには和歌山県を含む西日本で、弥生時代中・後期を通じて多く見受けられる高地性集落の動向と銅鐸出土の分布が関連するといった見解もある。それは、先述の県北部では、比較的古段階と云える「外縁紐式」や「扁平紐式」の銅鐸の出土が主であるが、それらの多くは丘陵部からの出土であり、対して県北部での新式の「突線紐式」は、河川の近くなどの平野部からの出土が多い。そして、この傾向は中紀の日高川流域にまで共通する。

そして、さらに銅鐸出土地を求めて南下すると、南高梅で有名なみなべに至り、ここでは、さきの傾向から一変して、新式の「突線紐式」を主とする銅鐸全てが丘陵地からの出土となり、そして、この傾向は、南紀の富田川流域にまで共通する。そこから、さらに南下すると紀伊半島最南端を経て半島東側の新宮市の経塚遺跡にて破砕された新式「突線紐式」様式銅鐸の破片20点ほどが出土しているが、これは名前(経塚)が示すとおり、後代の遺跡と混交しており、その埋納の来歴は、他の県内出土銅鐸のそれとは異なるものと考える。

ともあれ、そこから、紀ノ川流域の紀北から日高川流域の中紀までの地域と、南下した南部川流域のみなべ町から富田川流域の南紀までの地域では、新式である「突線紐式」銅鐸の出土地の傾向が異なり、前の県北部地域では、河川近くなどの平野部からの出土であり、後の南部地域では、丘陵地での出土となる。そして、この県南北での「突線紐式」銅鐸の出土傾向の相違は、弥生時代中・後期に出現する高地性集落が営まれた時期と関連し、端的に県北部では、高地性集落を営む必要性が比較的早くに失われ、住民は水稲耕作に適した平地に戻り、そして、それに伴い銅鐸も平地に戻され、その後、何らかの理由により銅鐸祭祀自体が廃されて、そして埋納されたといった推移の様相が考えられる。それに対して県南部では、銅鐸祭祀が廃されるまでのより長い期間、高地性集落が営まれ、そのため、その埋納も集落に近い丘陵地や山頂付近の山腹といった立地になったと考えられる。

しかし、これらもまた現時点ではあくまでも仮説であり、今後、何らかの新たな発見、出土などにより、当仮説もまた変化する可能性がある。

ともあれ、今回もまた、ここまで読んで頂きどうもありがとうございます!





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