2020年9月15日火曜日

20200915【架空の話】・其の40

ともあれ、その後しばらくして店を出たが、お会計の際に指導教員が「まあ、こんなことあまりありませんから。」と、ご馳走してくれた。そして「代わりに駅前の喫茶店のコーヒーは私がご馳走になりましょう。これが所謂「配分的正義」というものです。」と宣われた。

店から駅前の喫茶店は徒歩3、4分程度であり、このチェーン店の喫茶店は、安価ながらも比較的美味しいコーヒーが飲めると私は思っている。

冷たい風が吹く商店街を通り過ぎ、駅前の店内に入ってみると、混雑している様子はなく、我々は外からの寒い空気が届かないと思しき店内奥の方にある二人掛けの座席を目指した。隣の席にはイヤホンを挿しつつ勉強をしている学生と思しき若者が掛けていた。それぞれ荷物をおろし、コートを脱いだところで、私は「じゃあ、私が買ってきますので、先生は何を飲まれますか?」と訊ねると「うん、じゃあホット・コーヒーをお願いします。」とのことであり、私はそのまま財布を持って席を立ち、注文に向かった。

スムーズに注文を終え、1,2分の後には、カップに注がれたコーヒーをトレーに載せ座席に戻ってきた「先生はブラックで良かったですよね?」とトレーを置く前に、一応訊ねると「うん、ブラックが良いです。」と手短に返事をされた。

私の方には未ださきのカレーそばの余韻が舌に残っていたが、コーヒーを飲んでみると、どうしたものか、その余韻の感覚が若干強くなるように思われた。やはりカレーとコーヒーは相性が良いのだろう。

一方で指導教員は、さきほどの蕎麦屋さんとはうって変わって背筋を伸ばしつつコーヒーを飲み始めたが、すぐに「そういえば、この先K県に行くことなると思いますが、住む場所は決まりましたか?」と訊ねてきた。それに対し私は「ええ、実は今度の金曜日に住む場所を探しに行く予定です。向うでは住まい探しを手伝ってくれる友人がいるのです。」と返事をし、付け加えてBのことを話した。

「ああ、よく君と一緒にいる彼か、彼はK出身だったのですね・・。それは良かった。」そして、その後に指導教員はご自分が留学時に住まわれていた寮の話をされたが、どうも日本のそれとは勝手が違うように思われた。それでも異郷の地で何年にもわたり生活したのは大変であったとは思われたことから「それで、先生は向うに住んでいて一番何に困りましたか?」と訊ねてみると「やはり食べ物だろうね・・。今では分からないけれども、私がいた頃は、日本食のお店なんてほとんどなかったからね・・。でも、若いうちは、そうした経験をするのは大事なことではないかと思いますよ・・。それだからこそ、さっきのカレーそばの美味しさもより強く感じ取ることが出来るのだと思います。」とのことであった。

私といえば、これまで違う場所にて長く住んだ経験がないことから、その感覚はよく分からなかったが、たしかにそれは大事なことであるように感じられた・・。

そして「またそちら方面で学会などがあった時は、ご連絡しますので、比較的近い場所であって来れそうであれば来てください。」とのことであった。その後は卒業式や来年度から面倒を見ることになった新入院生のハナシになったが、21時頃には店を出て、それぞれ帰路についた。

帰宅してみると、既に両親は家におり、今日のことを訊ねられたため、カレー蕎麦のことを話すと「それは美味しそうだ・・。そこも今度行ってみよう。」とのことであった。私の両親はこうした外食の情報については、比較的好奇心旺盛であると云え、仲間内では情報通として通っているとのことであった・・。

さて、その後の家探しのためのK訪問までは、特筆すべきこともないと思われたが、じきに院を修了するため、アルバイトを辞めることになる古着屋を訪ね、あいさつした際には、店長から礼を云われ、餞別まで頂いてしまったことから、それで新たに店内の古着を購入しようとしたところ「いや、またこっちに来た時に良いモノが見つかったら、その時に買ってくれればいいから・・。」とこれまたやんわりと止められ、さらにK方面での古着事情を説明してくれた。店長は買付けのため度々外国に出向くのであるが、そこで同じ日本から来た同業者と話す機会があり、kでは大都市と云えるF市にある「大名」という地域に、そうした店が集まっているとのことであった。また、この「大名」の店では国内でも、かなりセンスの良いモノが集まっているとのことでった。とはいえ、ここは私が住むことになるKとは距離的に少し遠く、日帰りで行くのは困難そうに思われた・・。

そして「多分、向うはここよりも暑いので、アロハは少し攻め過ぎだと思うから、色味の落ち着いたレインスプーナーのボタンダウンのプルオーバーシャツか、渋めの色合のキューバ・シャツなんかを着ていると良いかもしれないね。」とのことであった。また、向うでもこうした話を普通に聞くことが出来るのだろうかと、少し不安になったが、とはいえ「他の場所に住むということは、そうしたことも全て含めてのことであり、若いうちは、そうしたことを経験しておいた方が良いのだろう・・」と、ここ最近、頭では考えるようになっていた・・。

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!

新版発行決定!
ISBN978-4-263-46420-5

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