2020年11月16日月曜日

202011116【架空の話】・其の46

店内の鳥を焼く薫りは、既知の首都圏での焼き鳥の薫りと、同じ鶏ではあれ、少し違うように感じられた。その後、さきに出た霧島本店にも何度か足を運ぶことになったが、この当初の感覚は、多少オーバーな表現ではあったかもしれないが、しかし、あながち間違いでもなかったように思われる・・。

ここで私は人生初で鶏の刺身を食べたわけだが、その味は粗く述べると、魚の刺身から磯の香を差し引き、尚且つ少し繊維質を強めにした感があり、また味の詳細については部位によっても異なると云える。

くわえて、盛られた刺身の中に鶏のレバ刺があり、これは当初、食べるのを相当躊躇した。なぜならば、私は昔からレバーこと肝臓を用いた料理が苦手であったからだ。対照的に、現在Wに住んでいる兄は、昔からどうしたわけか、そうした料理が好物であり、特にレバーペーストやレバーヴルストには目がなく、それらを褐色で硬めのローマン・ブレッドに塗り付け、サンドウィッチのようにして食べるのをことのほか好んでいた。

さて、この鶏のレバ刺にハナシは戻る。これになかなか箸をつけないのを見て、しびれを切らしたと見えるBが「このレバ刺が美味しいんだよ。初めてで少し気乗りがしないのかもしれないけれども、一つ食べてみなよ。」と促してきた。私の方も敢えて箸をつけないでいたことがバレてしまった恥ずかしさもあり、それを取消すかのように「あ、そうだった。じゃあ食べてみるわ。」と云い、一つ箸でつまみゴマの薫りのするタレに少しだけつけてから食べてみると「何だこれは!?」となった。たしかにレバー特有の匂いは少しだけあるものの、鼻に抜けるその薫りはむしろ上品であり、また、その味には自然な甘みがあり、独特の少し歯ごたえのある食感が渾然一体となって、次の一切れを取るようにと、私を誘うのであった・・。

こうして2切れほど続けて食べていると、Bが「どう、結構美味しいでしょ。このお店に来ると、どうもレバ刺は注文するんだよね。」と云ってきた。私はそれを聞きつつ、頷いて「うん、これはかなり美味しいね。今までレバ刺を食べなかったことが、もったいなく思えて来るほどだよ・・。」と正直に思ったことを伝えた。するとBは「いやいや、東京ではこんな美味しい鳥のレバ刺は多分食べることが出来ないと思うよ・・。やはり、こっちの環境というものがあって、はじめてこうしたものを普通のお店レベルで美味しいものとして提供することが出来るのだと思うよ。その意味でここKは、大陸にも近いし、南の沖縄では、さらに大陸に近いことから、昔から肉食文化があったのだけれども、ここkでは、そうした地域性もあって、鶏の刺身も普通に食べるし、沖縄では山羊を刺身で食べるって聞いているからね・・。あとは北隣のK県では馬刺しが有名でしょ。だから、こっちの食文化は何ていうかな、刺身(生食)文化が魚類に収斂される以前の古い要素が残されているんだと思うよ。」とのことであったが、たしかにその意見には「百聞は一見に如かず」のような体感レベルからの説得力があり、たとえ全く同じ意見を首都圏にて聞いたとしても、ここまで深くは心に刻まれなかったであろう・・。

さて、普通の皮付きのたたきのような鳥刺しを食べると、そこでつける醤油がやけに甘いことに驚いたが、それは未経験のものではなく、以前、編入試験の際に立寄ったT文館のY形屋デパート近くのラーメン屋さんにて出てきた大根の浅漬けを食べるための醤油もまた、まさにこんな感じでった。

私はBに「こっちの醤油は大体こんな風に甘いの?」と訊ねてみると「うん、ここ九州の醤油は全体的に甘いけれども、その中でもここKの醤油は特に甘いと聞いているね。まあ、でも、この甘い醤油が鳥刺しには合うんだよね。」という返事が返ってきたが、それもまた「なるほどと思わせる」妙な説得力があり、あまり反論する気にならなかった・・。

ほかにも当店自慢という鶏めしや桜島の溶岩をプレートとして用いた焼き肉のような焼き鳥を十二分に堪能させてもらい、店を出ようとお会計をお願いすると、店員が持ってきた伝票をBが半ば強引に受取り、金額を渡した。私が自身の分の代金を支払おうとすると、Bは「ここは俺が支払うから!」と制止してきた・・。ここでBにご馳走になる理由は特にないことから、その旨を伝えると「いやいや、Cさんのこともあるから・・。」と云われ、そこで無言ながらハッと感覚的には納得するに至ったものの、ここでの支払いとBとCさんが付き合っていることの明確な関係性は、イマイチよくわからなかった・・。

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!





ISBN978-4-263-46420-5

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