2022年11月20日日曜日

20221120 株式会社 光人社刊 光人社NF文庫 比留間弘著「地獄の戦場泣きむし士官物語」 pp.42-44より抜粋

株式会社 光人社刊 光人社NF文庫
比留間弘著「地獄の戦場泣きむし士官物語」
pp.42-44より抜粋
ISBN-10 ‏ : ‎ 4769820631
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4769820635

ビルマ派遣軍司令部は、もと大学ででもあったのか、広い構内にあり、建物はコンクリート建てで、白黒のダンダラ模様に迷彩をほどこしてあり、大きな偽装網がぶら下がっている建物もあった。

 こんなところへ、こんな細工をしても効果があるのかと思ったが、口には出さなかった。

 軍司令官は、マラリアでねており、参謀長が申告をうけた。彼は、開口一番、「大変なところへ来てもらって、お気の毒である」といった内容のことをいった。

 「この戦争で、すくなくとも攻勢をとっているのは、ビルマだけだ」と、われわれは勢いをつけてこられたのに、

「お気の毒だ」といわれたのには、ガッカリした。

 それもそのはず、ちょうど申告をした部屋は作戦室であり、その壁に貼ってある作戦図には、今まで士官学校で習ってきた退却作戦の要図、そのままが描かれている。隊号を虫ピンでとめてある。

 青色で南の方へ下がっている何本かの大きな矢印は、日本軍の退却をあらわしている。赤色の矢印がそれを追いかけている。青の矢印の中間には、赤い落下傘の印が点々ととめてある。敵の空挺部隊が、退却を妨害していることを示している。

 北東の方には、青い環が三つばかりあり、これを赤い環がかこんでいる。ラモウ、ミートキーナ方面で、日本軍は敵に包囲され、孤立して苦戦をしていると聞いていたが、現実に司令部には、正直に敗けいくさの状況が示されているのだ。

 そして、参謀長のいわれるには、「日本軍はインパールから退却し、ある地点で態勢をたてなおすために、移動中である。そこへ追及しても、とくにやる仕事はないし、若い連中が行って、貴重な米を食い荒らすことになるともったいない。しばらくラングーンにとどまって、ようすを見てから前線に追求せよ」ということであった。

 二、三日は兵站旅館にとめてもらったが、すぐに追いだされて、むかしゴルカ(グルカともいう)兵の兵舎であったという粗末な兵舎に寝起きすることになった。

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