pp.21‐22より抜粋
ISBN-10 : 4167911981
ISBN-13 : 978-4167911980
ジョン・フォード監督永遠の名作、西部劇「駅馬車」の最大の見せ場は、勇猛果敢なインディアン(「先住民」じゃ感じが出ない!)と駅馬車の、追いつ、追われつの壮絶なアクションです。ところが西部開拓史研究の有名な学者がケチをつけた。「インディアンは駅馬車を襲う時、まず馬を撃つ、そして馬車が止まってから四方から群がってとどめを刺しに来るのに、この場面ではそれをしていない。時代考証が間違っている!」と。
しかし、フォード監督少しも騒がず、「馬を撃ったら映画がそこで終わっちゃうじゃないか」と答えたそうです。この話、真偽・出典ははっきりしませんが、物語と時代考証の関係を実にうまく言い当てています。
時代考証はあくまで、その物語が成立する基本、すなわちそこからはみ出たらアウトの、「時代の枠組み」を確定するツールに過ぎません。そして「枠」が一旦決まったら、あとはその中で思うままに登場人物を動かして面白い話を作ればよいのであって、決して史実を物語に優先させるための制御システムではないのです。
ISBN-10 : 4150504350
ISBN-13 : 978-4150504359
有名な映画監督のジョン・フォード海軍中佐と撮影班員がフィルムを撮るなか、「機械製ロバ」と呼ばれる牽引車が双発爆撃機を発信位置に引っ張って行った。ドーリットルが乗った。一番機の滑走路の長さは、百四十二メートルしかなかった。各機のタンクは満タンにされたほか、予備燃料として五ガロン入りのガソリン罐を十個ずつ積み込んだ。
ドーリットルはエンジンを全開にした。その音があまりにすごかったので、まわりにいたパイロットたちはエンジンが焼けてしまうのではないかと心配した。車輪止めがはずされた。ドーリットルの乗機は走り出した。左側の車輪が飛行甲板の左舷側に引かれた白い線の上を走った。B25は、甲板に吹きつける強風に向って、フラップをいっぱいに下げ、不格好に機体を左右に揺さぶりながら前進した。左の翼は空母の舷側の上に突き出ていた。
他のパイロットたちは、この向かい風がドーリットル機の浮揚にはたして十分だろうかと心配しながら、緊張した表情で見つめていた。もしドーリットルが成功しなければ、彼らにできるはずはなかった。B25はスピードを上げた。見る者にとっては、ドーリットル機の加速はあまりにも遅く思えた。しかし航空母艦の艦首が荒波のために高く持ち上げられた瞬間、同機は甲板をあと数メートル残して空中に浮いた。午前七時二十分であった。
ドーリットル機が旋回して〈ホーネット〉の上を低空で飛び、一路東京へのコースをとると、期せずして歓声がわき起こった。あとの爆撃機も一機ずつ甲板を滑走し始め、見守る人たちが、手に汗にぎるなかを空中に浮かんだ。最後の一機がゆっくりとスタートラインに向かうまで、万事が順調に運んでいた。そのとき突然、甲板要員の水兵ロバー・W・ウォールが足をすべらせ、前の飛行機のプロペラがまき起こした風でタンブルウィード(秋になると根元から折れて風に吹き飛ばされるアメリカ産の雑草)のように吹っ飛ばされて、後続機の左のプロペラに巻き込まれてしまった。ウォールの左の腕はもぎとられたが、はじき飛ばされたため、それだけで済んだ。
衝撃を感じとったパイロットは後ろを振り返り、ウォールが甲板に大の字にたたきつけられているのを見た。あわてた彼はフラップの操作レバーをニュートラルにしないで戻し、フラップを引っ込めてしまった。このため、飛行機はよろけながらも甲板を離れたものの、すぐに高度が下がって艦首のかげに見えなくなった。甲板員たちはてっきり海中に突っ込んだと思った。だが、安心したことに、飛行機は波の上をかすめてよたよたと上昇し、向きを変えて他機の後えお追った。時計は午前八時二十分をさしていた。
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