近年歯科医療において注目されているジルコニアであるが、このジルコニアとは金属であるジルコニウムの酸化安定状態にあるものを指す。
一方において、ジルコニアとはホワイト・メタルと称されることもあるようだが、あくまでも金属酸化物であるアルミナなどと同様セラミックスに分類されるものである。
しかしながら、ジルコニアがさきのように称されることにも理由がある。
それは機械的強度が非常に強く、耐摩耗性においても優れているという点である。さらに金属歯科材料と比して優れている点とは、金属特有の金属光沢を呈せず、多少の光透過性をも有し、そして既に酸化安定状態であることから生体為害性を持たない点であると云える。
最後に述べた点とは、生体材料として用いるうえにおいて、特に考慮すべきことであると云える。
それ故、さきの記事においても少し触れたが、ジルコニアとは整形外科領域における人工股関節の材料としてアルミナと並び用いられているが、昨今においてはその優れた機械的性質(破壊靭性はアルミナの約2倍)から徐々にジルコニアに置換されつつある。
さて、このジルコニアとは三種の結晶構造を持ち、それぞれ単斜晶・正方晶・立方晶と云う。単斜晶とは結晶構造が全体に斜めに傾き、正方晶は直方体による結晶構造であり、そして立方晶とは立方体による結晶構造を持つ。
これら三種の結晶構造とは温度により変化(相変態)し、焼結後に冷却すると立方晶から正方晶へ、そして正方晶から単斜晶へと変化(相変態)する。
そしてこの変化(相変態)が生じる際に収縮・膨張が生じ、正方晶から単斜晶への変化の際は4%程度の体積膨張が生じ、これにより脆性化・機械的強度の低下が生じる。
こうしたことは安定した機械的強度が求められる生体材料としては望ましくないことから、これに微量(数mol%程度)の安定化材(イットリア・アルミナなど)を添加することにより立方晶を保持した状態にて結晶構造が安定化し、さきの温度変化による機械的性質の低下を防ぐことが可能となる。
しかしながら、この安定化ジルコニアとは結晶構造が安定してはいるものの、その機械的強度とは各種生体材料として用いるには弱すぎることから、さきの安定化材の添加をさらに減らすことにより、単斜晶・正方晶が混在し部分的に結晶構造が安定した部分安定化ジルコニアが開発された。
この部分安定化ジルコニアこそが現在医療・歯科医療分野において用いられているものであり、とりわけ3~4mol%程度のイットリアを安定化材として添加したジルコニアは常温下においてほぼ全てが正方晶の結晶構造を成し、機械的強度に優れ、正方晶ジルコニア多結晶体(Yttria-stabilized tetragonal zirconia polycrystal:Y-TZP)と呼ばれている。
さて、この部分安定化ジルコニアは応力を加えることにより結晶構造が変化する。
これを異言すると、正方晶状態の部分安定化ジルコニアに応力が加わることにより単斜晶へと変化(相変態)し、その際、さきに述べた4%程度の体積膨張が生じるということである。
そして、この体積膨張により、応力によって生じた微細な亀裂の更なる進展が妨げられるといった部分安定化ジルコニア特有の機構がある。【応力誘起相変態強化機構】
この機構とはセラミックス材料において稀有とも云えることから、現在においても更なる実用化を念頭に置いた研究が為されているが、とりわけ天然歯に置換する歯冠材料として用いるための工夫・研究とはここ数年程度で大きく進展したと云える。
自身がかつてこの分野において研究活動に従事していた時期、あくまでもジルコニアとは、むき出しのままにて口腔内に用いられる材料とは考えられてはおらず、これをコア材料として用い、その上に歯科用陶材の築盛、成形そして焼成といった工程が不可欠であると考えられていた。
それ故、ジルコニアと歯科用陶材の接着強度およびその接着メカニズムの解明が重要であったのだが、これらは現在においては考慮を要しないものとなった。
何となれば、その組成等の工夫によりジルコニア自体の発色が天然歯のそれに近いものとなってきたからである。
もとより絶え間のない進化発展により、科学・技術の研究とはこうしたものであるのだが、ただし、そこで重要であると思われることは、何れかの分野の研究において世界規模での最先端を体感することではないかと思われるのだが、さて如何でしょうか?
今回もここまで読んで頂きどうもありがとうございます。
そして来年もまた、しばらく記事作成を継続しようと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
皆さまにとって来年が良い一年となりますように。
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