ISBN-10 : 4106036436
ISBN-13 : 978-4106036439
イスラエルのガザ・ハマース攻撃は、中東と国際政治に権力の空白が重なった時期に勃発した。イスラエルではオルメルト首相が2008年9月に辞任を表明しながら新政権設立が進んでいない。オルメルトはそもそもシャロン元首相の代役だった。2005年に新党カディーマを設立したシャロンが06年1月に脳梗塞で倒れて職務遂行不能となったため、イスラエル政治では例外的に、職業軍人のキャリアを背景としないオルメルトが首相となった。しかし06年夏にレバノンのヒズブッラーへの軍事作戦の挫折で力を失い、汚職疑惑で責めたてられて辞任表明を余儀なくされた。
カディーマ党の後継党首に選ばれたリブニ外相は、少数政党が乱立するイスラエル国家で多数派形成に失敗し組閣できず、オルメルト政権が暫定的に続いている。09年2月に予定される総選挙の結果、新たな議会多数派が形成されてはじめてイスラエル政治の空白が埋まるが、野党リクードとその党首ネタニヤフ元首相の支持率が上昇してリブニをしのぐようになっていた。今回のガザ攻撃決断の背景には、政権与党とリブニの野心があるというのが大方の推測である。
一方、05年1月にパレスチナ自治政府大統領に当選したアッバースの任期は、厳密には09年1月9日に切れたはずである。選挙法改正で10年1月まで任期が続くというのがイスラエルと和平を進める主流派閥のファタハの苦しい説明だ。06年1月の総選挙で過半数を獲得し、07年6月にファタハとの市街戦を経てガザの支配権を掌握。イスラエルに軍事的に対峙するハマースは、自分たちこそがパレスチナ民族を正統に代表するという自信を深めている。
ハマースが08年6月にエジプトの仲介で発効した半年間の停戦の期間を延長を拒否し、ロケット弾攻撃を再開して衝突の道を選んだのは、軍事+オプションを捨て過去の和平プロセスでの合意に縛られるファタハとの差を際立たせる狙いもある。さらに。退任するブッシュ米大統領に追い打ちをかけ体面を失わせることになったのは、反ブッシュで結束するイスラーム世界への宣伝効果が大きく、ハマースにとってこの上ない政治的成果である。
オバマ米次期政権の中東政策は未知数で、イランとの対話を再開し、場合によってはハマースとも接触してイスラエルに厳しい対応をするという予測もあり、イスラエルとしてはブッシュ政権中にハマースの軍事能力を削いでおきたかった。
そもそも米国の政権末期には中東情勢が流動化しやすい。2000年夏には、政権末期のクリントン大統領が和平仲介を推し進めて挫折し、直後に第二次インティファーダ(民衆蜂起)が勃発した。以来、現在に至る激しい対立が続いている。
イスラエルとハマースの双方が、06年夏のレバノンでのイスラエル・ヒズブッラー間の戦闘を念頭に置いている。ハマースから見れば、イスラエルとの戦闘を耐え抜いてその後のレバノン政治での地位を高めたヒズブッラーに続きたい。わずかでもイスラエル側に打撃を与えられれば「戦果」として誇示できる一方、どれだけ大きな犠牲をハマースと一般市民が受けても、イスラエルの邪悪さの証明として宣伝できる。全面対決はハマースにとって政治的に最適の選択である。逆に、停戦を続ければ、イスラエルによるガザ封鎖で社会経済を崩壊させるばかりで、何ら情勢改善がなかった、という非難を受ける可能性があった。
イスラエルとしては、対ヒズブッラー作戦の二の舞にはならない、という点を強く強調している。国際非難を避けるため報道陣の立ち入りを拒み、通信も制限し、空爆だけでなく地上部隊も導入してハマースの拠点を一つ一つ潰していく作戦を遂行している模様だ。しかし地上部隊の派遣がガザの長期的占領につながることこそが、イスラエル世論が最も忌諱する選択であり、エジプトにガザを再占領させる、といったおよそありえない選択肢までリークして世論の動揺を避けようとしている。
オルメルトとリブニにとっては、ガザからのロケット弾の発射を一時的にでもほとんどゼロにすることが内政上の不可欠の課題である。ガザ・エジプト国境のトンネルを介したハマースへの武器供給が止まるという説明を国民にできるような枠組みを国際社会が用意するまでは停戦を引き延ばすだろう。
短期的にハマースの軍事力を大幅に削ぐことは可能だが、同時にハマースのパレスチナ内部やアラブ世界での政治的な威信はさらに増大する結果を伴うとみられ、中・長期的にはより深刻な問題に直面することになるかもしれない。もしハマースを根絶することができたとしても、多大な人道的被害を伴い、ハマース不在の空白にさらに過激な勢力が拠点を築くことになりかねない。
ISBN-13 : 978-4106036439
イスラエルのガザ・ハマース攻撃は、中東と国際政治に権力の空白が重なった時期に勃発した。イスラエルではオルメルト首相が2008年9月に辞任を表明しながら新政権設立が進んでいない。オルメルトはそもそもシャロン元首相の代役だった。2005年に新党カディーマを設立したシャロンが06年1月に脳梗塞で倒れて職務遂行不能となったため、イスラエル政治では例外的に、職業軍人のキャリアを背景としないオルメルトが首相となった。しかし06年夏にレバノンのヒズブッラーへの軍事作戦の挫折で力を失い、汚職疑惑で責めたてられて辞任表明を余儀なくされた。
カディーマ党の後継党首に選ばれたリブニ外相は、少数政党が乱立するイスラエル国家で多数派形成に失敗し組閣できず、オルメルト政権が暫定的に続いている。09年2月に予定される総選挙の結果、新たな議会多数派が形成されてはじめてイスラエル政治の空白が埋まるが、野党リクードとその党首ネタニヤフ元首相の支持率が上昇してリブニをしのぐようになっていた。今回のガザ攻撃決断の背景には、政権与党とリブニの野心があるというのが大方の推測である。
一方、05年1月にパレスチナ自治政府大統領に当選したアッバースの任期は、厳密には09年1月9日に切れたはずである。選挙法改正で10年1月まで任期が続くというのがイスラエルと和平を進める主流派閥のファタハの苦しい説明だ。06年1月の総選挙で過半数を獲得し、07年6月にファタハとの市街戦を経てガザの支配権を掌握。イスラエルに軍事的に対峙するハマースは、自分たちこそがパレスチナ民族を正統に代表するという自信を深めている。
ハマースが08年6月にエジプトの仲介で発効した半年間の停戦の期間を延長を拒否し、ロケット弾攻撃を再開して衝突の道を選んだのは、軍事+オプションを捨て過去の和平プロセスでの合意に縛られるファタハとの差を際立たせる狙いもある。さらに。退任するブッシュ米大統領に追い打ちをかけ体面を失わせることになったのは、反ブッシュで結束するイスラーム世界への宣伝効果が大きく、ハマースにとってこの上ない政治的成果である。
オバマ米次期政権の中東政策は未知数で、イランとの対話を再開し、場合によってはハマースとも接触してイスラエルに厳しい対応をするという予測もあり、イスラエルとしてはブッシュ政権中にハマースの軍事能力を削いでおきたかった。
そもそも米国の政権末期には中東情勢が流動化しやすい。2000年夏には、政権末期のクリントン大統領が和平仲介を推し進めて挫折し、直後に第二次インティファーダ(民衆蜂起)が勃発した。以来、現在に至る激しい対立が続いている。
イスラエルとハマースの双方が、06年夏のレバノンでのイスラエル・ヒズブッラー間の戦闘を念頭に置いている。ハマースから見れば、イスラエルとの戦闘を耐え抜いてその後のレバノン政治での地位を高めたヒズブッラーに続きたい。わずかでもイスラエル側に打撃を与えられれば「戦果」として誇示できる一方、どれだけ大きな犠牲をハマースと一般市民が受けても、イスラエルの邪悪さの証明として宣伝できる。全面対決はハマースにとって政治的に最適の選択である。逆に、停戦を続ければ、イスラエルによるガザ封鎖で社会経済を崩壊させるばかりで、何ら情勢改善がなかった、という非難を受ける可能性があった。
イスラエルとしては、対ヒズブッラー作戦の二の舞にはならない、という点を強く強調している。国際非難を避けるため報道陣の立ち入りを拒み、通信も制限し、空爆だけでなく地上部隊も導入してハマースの拠点を一つ一つ潰していく作戦を遂行している模様だ。しかし地上部隊の派遣がガザの長期的占領につながることこそが、イスラエル世論が最も忌諱する選択であり、エジプトにガザを再占領させる、といったおよそありえない選択肢までリークして世論の動揺を避けようとしている。
オルメルトとリブニにとっては、ガザからのロケット弾の発射を一時的にでもほとんどゼロにすることが内政上の不可欠の課題である。ガザ・エジプト国境のトンネルを介したハマースへの武器供給が止まるという説明を国民にできるような枠組みを国際社会が用意するまでは停戦を引き延ばすだろう。
短期的にハマースの軍事力を大幅に削ぐことは可能だが、同時にハマースのパレスチナ内部やアラブ世界での政治的な威信はさらに増大する結果を伴うとみられ、中・長期的にはより深刻な問題に直面することになるかもしれない。もしハマースを根絶することができたとしても、多大な人道的被害を伴い、ハマース不在の空白にさらに過激な勢力が拠点を築くことになりかねない。
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