2016年1月17日日曜日

村上兵衛著「国破レテ」失われた昭和史 二玄社刊pp.397-400より抜粋20160116

欧米と日本とのあいだに介在する有力な誤解の原因の一つは、第二次世界大戦およびそれに至る現代史の認識のちがいである。そしてその誤解のすべてを除くことは困難であるにしても、なんとか共通の理解に達する素材を提供することはできないだろうか・・?
日本の歴史についての研究は、海外でもひじょうに進みつつある。

とりわけアメリカの日本歴史研究者の業績には、近年、目を洗われるものがあり、第二次大戦後の時期については、その視野は広く公正で啓発されるところが多い。
しかし残念ながら、その研究はなお専門の分野にとどまっていて、もっとも近い過去であるあの戦争の前後の時代を、ひとつの通史として叙述するまでには成熟していない。
ひるがえって日本の歴史学者、そしてその筆になる通史に目を通すと、事情は最悪とさえいえる。私は、「まえがき」」でも触れたように、これまで刊行された日本の現代史に関する書物の熱心な読者であるが、どういうわけかそれらには、世界のなかで日本および日本人だけが悪かった・・・という読後感を、読者に抱かせるように書かれている。
どういうわけか・・・?いや、その理由は明らかである。
連合軍は武力によって日本を打ち負かしたのち、さらに日本人の精神的武装を打ち壊すことにつとめ、そして見事に成功した。
いわゆる、戦争裁判、とりわけ「極東軍事裁判」とその報道とは、日本人の誇りを打ちのめすには充分であった。
あの戦争は日本の軍閥とその支持者たちの共同謀議によって、着々と進められたものとされ、連合国のいっさいの過誤や罪は問われることがなかった。
そしてもっとも不幸なことは、この「極東軍事裁判史観」とでもいうべきものを、日本のいわゆる進歩的な歴史学者、社会学者の多くが、双手を挙げて迎え容れた、という事実である。さらに、この「史観」に唯物史観―というより社会主義は正義であり、無謬であり、ゆえにつねに勝利する―という思想が輪をかけた。じじつ中国大陸においては、当時、紅軍が駸々と勝利を収めつつあった。
日本人は、このような「勝てば官軍」思想には、じつに脆い。
昨日の源氏の白旗は、たちまり今日の平家の赤旗に取ってかわられる。
だから、たとえば朝鮮戦争がはじまったとき、世界は共産党軍の侵攻を知っていたが、この国ではそれをいい出す者は「非国民」扱いされた。
また、日本が占領下を脱し、ふたたび国際社会に復帰するにあたって、「全面講和(ソ連との講和)」の思想に与しなりものは軍国主義者であるかのような議論が、この国では風靡した。その結果として日本の通史をひもとくと、戦後においてさえ日本政府(権力)の政治的選択はつねにアヤマリで、「逆コース」「復古調」「右傾化」として指弾される。
そして「全面講和論」にはじまって「基地反対闘争」「勤評闘争」「安保闘争」と、良心的な文化人と、弾圧されても屈しない英雄的な人民のモノガタリ―その描写は、日本の戦前や徳川時代とどこが変ったのかと目を疑わせるほどである―がどこまでもつづく。
私は、それらの思想や運動のすべてがムダだったとは思っていないし、それらの教訓が政治に組み入れられていった結果が、今日まで日本の平和や繁栄の一部を支えてきた事実を否定するものではない。
しかし、それのみが日本の歴史であったとするのは、大きな危険をともなう・・。

(中略)

日本人は、戦争にむかう道程においても、世界を見る視野に乏しく、その単純で脆い民族性の欠陥を露呈した。しかしその欠陥は敗戦によって少しでも修正されただろうか?
敗戦は、むしろこの民族の弱点を拡大したようにさえ思われる。ひとつには、この民族が敗戦という経験にまったく馴れていなかったからだろう。それまでの皇国史観が消し去られたのち、日本では連合国の視点から、あるいはソ連ないし新中国という正義の視点から歴史と人間とを断裁する―という単純な転換がおこなわれた。
いや、そういい切ってしまっては、それも単純に過ぎるかも知れない。
時代を経るにつれて、歴史の叙述にはいくらか修正もおこなわれ、また論証も精緻になった。
・・・しかし基本的に、日本および日本人についての矮小化、ことさらな無視、卑屈さはあいかわらずつづいている、というのが私の見解である。

国破レテ-失われた昭和史
ISBN-10: 4544053013
ISBN-13: 978-4544053012
村上兵衛






         
      

     


                                                                                                                 


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